地方漫遊記「地域イベントに”一過性”はない」

■執筆者 新藤健一郎
■執筆日時 2002年10月15日
 
「中国から花嫁がやってきた」

 地方の仕事を20年近くやっていると、ハレの日に出会うことも多々あります。
 少し古く2000年の9月に東北地方のA町で地元青年と中国福建省の女性の結婚式に招かれ、祝辞を述べる機会がありましたが、この時は仕事を忘れ地域の「温度」に酔いました。
 当日は、外国からの美しい花嫁を一目観ようと大勢の住民で賑わい、あたかも秋祭りの感がありました。特に興奮気味の青年が眩しく、さらに町長の破顔一笑は今でも思い出されます。
 無理もありません。足掛け3年の苦労の成果でしたから。
 1997年に当町の事業計画策定の重点課題に「地域リーダーの育成」が挙げられました。多くの他町村でも同様の課題を挙げますが、具体的行動に移して成果を上げているところは多くありません。が、当町では対策の第一段階として「嫁とりプロジェクト」を町長をリーダーに実施してきたのです。町長をはじめ町会議員や関係者が何度となく中国を訪問して現地農業への技術指導をはじめコミュニケーションを深めて得た成果ですから、喜びようも理解できます。
 しかし、花嫁が来たからと言って「地域リーダー育成」の課題が完了した訳ではありません。これは課題解決の一里塚であり、進捗の経過発表に過ぎません。大切なことは、その後、例の青年を含む若手の活躍の場を如何に仕組み、仕掛けていくかでした。現在、例の青年達は活躍の場を得て町の期待に答える活動をしています。

 我々のイベント業界にあって、結婚式は「単発のイベント」であり「一過性のイベント」であると譲らないイベンターもおりますが、私の視点からは「地域イベントに一過性はない」のです。むしろ結婚式の「前後の仕掛けと実施」が重要なのです。多くの緒先輩からは異論もあるでしょうが、「地域起こし」こそ「地域イベント」そのものであるというのが私の持論なのです。
 常々、私は講演の際「地域起こし」とは「地域住民のヤル気起こし」であり、「地域住民のヤル気起こしの仕掛け」こそ、優先されるべき事業であると話してきました。したがって、「興す」ではなく、あえて「起こす」の文字を使っています。
 「起こす」とは、「己が走る」と書きます。
 「己が走る」とは、地域住民が自ら考え、自ら行動することです。
 これが出来れば地域は動き出しますが、残念ながらほおっておいたら誰も動き出しません。ここに地域リーダーや我々のような仕掛け人が必要となると考えて20年間、地方を漫遊しています。

      
 「市町村合併と忘れられた主役」

 平成17年3月を目途に「平成の市町村大合併」が進められています。
3230の自治体が1000を目標に話し合われていますが、全ての市町村が賛成しているわけではありません。その理由は誌面の都合で記しませんが、1000の自治体が都市化・均一化され、いままで育てゝきた町村のアイデンティティが薄れてくるのではないかと心配している首長も多くいます。
 今後、地域ブランドを含む地域イベントの再構築が地域間競争の勝敗を左右する課題となりますが、地域を20年間漫遊してきた私が心配するのは、「主役の住民に対するプロモーション」が考えられていないことです。
 特に合併する地域住民の連帯感を醸成する仕掛け・仕組みが合併予定市町村に見当たらないのです。
 合併が人的にどれほど難しいかは、農協の例を見るまでもありません。

 現在、多くの市町村は赤字経営です。その要因の代表例を全国に見ることができます。
 イベントに使用される施設の費用対効果の悪さや、観光地として名を売ってきた温泉ホテルの経営不振や倒産は、消費者の価値観など時代の変化に対応できない経営者の怠慢もありますが、地域住民との交流を忘れ、外にばかり目を向けてきたツケが回ってきたのです。地域の主なハコモノが、主役の地域住民に愛されていないのです。
 いまこそ、「地域の連帯感を醸成」させ「地域の温度」を大切に育むイベントプランが望まれるところです。