「地域イベントは、地域のイメージを創るCI戦略となる」

■執筆者 JEDIS理事 小林公一

■執筆日 2016年2月29日

「JACE・イベント講座」では、
『個性的で魅力ある《地域づくり》は、地域に於けるCI(コミュニティ・アイデンティティ)の確立から始まる。その為の手法として、地域を取り巻く外部環境や、地域外の社会に対する対外的な運動と、地域内部の意識変革を推進するための対内的な運動の2つの要素を組み合わせたものであるべき』とある。

今回、こうした「地域イベント」の一つの事例として、古典落語の世界より「長屋の花見」を取り上げて検証してみたいと思います。

*先ずは、当時(江戸時代)の「長屋」のイメージですが、下町の狭い路地に面した、平屋建ての都市住居で、大多数の庶民、即ち、一般的な町人・職人のほとんどが、裏町の長屋に借家住まいをしていたそうです。これぞ、当時の地域コミュニティの最少版とも言えましょうか。

地域イベント「長屋の花見」とは…、

:はじめに
ある日、大家から呼び出しを受けた長屋の連中が、店賃(家賃)の催促じゃないかと顔を見合わせます。なにしろ、まともに払っている奴なんか一人も居ないのですから。大家からの呼び出しとなると、店賃の催促ぐらいとしか思いつかないのです。 おそるおそる大家の家に入ってみると、意外にも大家は、わりと機嫌よく言います…、

そこで、イベントの基本構成要素「6W2H」に基づいて、ご紹介しましょう。

Who(誰が)…主催者・〈貧乏長屋〉の大家さん(兼・総合プロデューサー)
実施スタッフ・今月の月番と来月の月番
Why(なぜ)…世間では、あそこの長屋は「貧乏長屋」だと噂されているのが気に要らない。 貧乏は恥ではないが、この評判が癪だから、この際、皆一緒に、長屋全体景気づけしよう。
Whom(誰に)…「貧乏長屋」の店子(住人)全員(店賃の意味さえ知らない奴も)
What(何を)…花見[花の名所(上野のお山)での宴会]
宴会用の、酒(一升瓶数本)・肴(卵焼きと蒲鉾)を、大家さんが用意したと聞いて、面倒くさそうに聞いていた長屋の連中、「御馳になります」と急に元気が…。口々に、礼を言われて、大家の方が頭を掻き、実は、酒瓶は数本あるが、中身が無いから番茶を水で薄めたものを。卵焼きに見えるのは沢庵で、蒲鉾の代わりは大根の漬物だと白状する。
こんなものでも、賑やかに飲んだり食ったりしていれば、はたから見れば豪勢にやっている様に見えるだろうと言う。
流石の連中もこれには呆れたが、行けば他人の酒にありつけるかもと言い出す者もいて、とにかく話はまとまる。
When(いつ)…思い立ったが吉日(今から~) 「春の好日」
Where(どこで)…花見客で賑わう上野の山  (他に向島・飛鳥山等も)
How(どのように)…

緋毛氈代わりの筵(ムシロ)で、酒瓶・肴類・茶碗等を包み、今月の月番と来月の月番が竹竿に吊るし担ぐ。
〈猫の死骸を捨てに行くようだとブツブツ言いながら〉
月番を先頭に、大家さん・長屋の連中と、連なって歩き、お山到着。毛氈代わりの筵を広げ、車座に陣取ます。
初め、連中は、山裾のところで、上から転がり落ちてくるであろう食べモノを期待して、一列に座わろうとするので、大家さんは、それでは、お貰い(乞食)の行列だと叱りつけ、しかるべきところに宴席を設けます。
ところが…、
=宴会を始めるものの、番茶に沢庵・漬物では、一向に盛り上がらない=     そこで…

+月当番の男が、番茶の「酒」を持って、お酌に回る。
『多く注ぎ過ぎだ』とけんか腰にもなる有様に。
(折角の景気づけと、交流・親睦の集いが~)

+業をにやした大家さん、来月の月番に、酔ったふりをするように言いつけます。

『どうだい? 酔った心持は』
『この間、井戸に落ちた時とそっくりだ』
『どんどんお酌をしてやれ』  『こうなりゃヤケ酒だ』

How mach(いくらで)…

主催者(大家)が全額を出費。
と言っても、そう深刻(新香食う)な沢山(タクワン)な金額ではなく、お茶を濁す程度だ。

イベントの評価 ・ 期待される効果

『さア、どんどん注いでくれ。  あッ、大家さん、近々、長屋にいいことがありますぜ』
『そんなことが、わかるか?』
『へえ、酒柱が立ってますから』
と、言う訳で、この花見の宴席から「貧乏長屋」に、明るい「希望の芽」が見えてきました。
「貧乏長屋」の連中と大家さんの、したたかですっきりした生き方が楽しみですネ。
このイベント、「長屋が和やか」となり、先ずは成功と致しましょうか。

*此の噺の元は、上方落語です。  ですから、たとえば、お茶け(酒)は「灘の酒」ではなく「宇治の酒」だとなり、関東では、その部分は「狭山や静岡の酒」だとなります。
「花見」の発案も長屋の連中から、それぞれが奇抜な格好で出掛けるというちょっと違った形や、長屋の連中が、この後に、喧嘩の真似を始めるなどして、オチも変わりします。

以上、お後がよろしいようで…。