多様化する音楽業界とイベントとの向き合い方

■執筆者 寺田 克己
■執筆日時 2018年11月16日

 私はかれこれレコード会社に35年ほど勤めておりますが、近年急速に変化が起きています。レコードが誕生して約130年、CDが誕生して約40年、正式な音楽配信がスタートしてわずか15年。音楽の聴き方が変わり、パッケージが売れなくなり、音楽産業そのものの形態も変わりつつあります。考えてみれば、かつては〇〇レコードなどというネーミングでしたが、今や〇〇エンタテインメントなどというネーミングの会社が多いように思います。未来を予測しての対応だったのかもしれません。

 音楽業界にイベントというのは常につきものですが、もちろんコンサートやライブといった興行が主体ですが、興行以外での多くはCD発売記念と題した販促イベントが連日のように全国どこかで開催されています。かつてはテレビ、ラジオ、新聞、雑誌で取り上げられ、レコードショップで購入するという流れが一般的でした。もちろんその仕組みは今も変わりませんが、インターネット、SNSの普及に伴い、間接的動機付けから直接的なものに変わり、イベントやコンサートでの販売需要がますます高くなっています。音楽業界自体の総売上高は世界的に増加しています。海外ではストリーミングによる売上拡大やコンサート収益の拡大などで好景気のようです。日本はパッケージ需要が高いお国柄のため、ストリーミング及びダウンロードは足踏みをしていますが、コンサート需要は増加の傾向にあります。かつてはもちやもちやでレコード会社はパッケージを売る、マネージメントはグッズを売りイベンターはコンサート、イベント等の開催を行い、お互いに成長していくという相互関係でしたが、今は360度ビジネスという方針から、それぞれが自らイベント、コンサートの主催・運営をするという方向に変化をしてきています。(オーディオレコード、音楽ビデオ、音楽ソフト計、音楽配信売上の生産売上実績は2012年~2017年で21%減[一般社団法人日本レコード協会調査]。興行に関わる会場内での消費は60%増[一般社団法人日本イベント産業振興協会報告])。

 レコード会社が主催する販促イベントではアイドルの握手会が最たるものです。商品を購入した特典として本人たちと握手会やチェキ会が出来るというもの。かつては手の届かない存在であったスターたちと生で触れ合うことが出来るというスタイルに多くのファンが楽しんでいます。しかし、一方エスカレートしたファンとの事件が度々発生しています。イベントにはトラブルがつきものですが、予想もしないような事件が発生し、結果的に多くの警備員を導入し、セキュリティーの強化などを行うことによって距離感が生まれ、主催者側には経費の増加も発生しています。せっかくの楽しい催しものが台無しになってしまうことも事実です。

 レコード業界は音楽や映像のコンテンツを作り、宣伝・販売するという業態から、コンテンツをユーザーへ直接的に体感させるというイベント型へ変化しています。パッケージ商品を通じて販売するという役割から、場を提供し体感させるという「主催」「運営」という役割に変わりつつあります。そのためにはイベントやコンサート等を熟知した新たな知識を持つ専門家が必要です。イベント業務管理士の資格を持つことにより、別の角度から見たエンターテイメントの魅力や新たな発見があります。エンターテイメントはますます所有から体感へと移行していくことでしょう。イベントの成長を担うのがイベント業務管理士としての役割と言えます。