『イベント3.0』~イベントの再民主化と業界の消失にあって~

■執筆者 関東地域本部長 杉本 昌志
■執筆日時 2018年8月17日

 僭越至極ながら、三度、原稿を書かせていただく機会を頂戴いたしました。本当にありがとうございます。今回は、標題のテーマで綴らせて頂ければと存じます。

 デジタル化の波が、イベントの世界にも押し寄せている。デジタル化によるディスラプションを「渦巻き(ボルテックス)」にたとえ、「デジタル・ボルテックス」としたマイケル・ウエイド IMD教授らによると、この渦の中心に最も近い業界が「#1 IT製品・サービス」であり、2番目が「#2 メディア・エンターテインメント」らしい。

 根来龍之 早稲田大学ビジネススクール教授によれば、「デジタル化は、モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化からなる」とされるが、確かに従前は、プロの手で一体的に提供されてきたイベントが、たとえば、コンテンツ調達では「クラウドワークス」や「ランサーズ」、会場選定では「スペースマーケット」、券売・集客では「イベントレジスト」や「Peatix」等々、デジタル技術の進化によって、機能の水平分離と共通仕様による埋め込みが進んでいる(レイヤー構造化とモジュール化)。また、物理的なチケットが必要だった券売もQRコードに変化(ソフトウェア化)し、SNSを用いたコミュニティによって告知がなされ、これらが有機的に結合し(ネットワーク化)、イベント成立に寄与している。

 これらの変化は、プロの手によらない草の根的なイベントの成立に大きく貢献している。実際、私自身も所属している社会人大学院のゼミOBOGらは、個々人の仕事の負担にならない範囲で、2ヶ月に一度程度、50名規模の講演会・セミナーを開催しているが、イベントのプロフェッショナルはいない。前述のツールやサービスが無くては難しいだろう。「イベント1.0」とも言える、イベントの起源を考えれば、一市民が自由に開催し、参加しうるという時代に、プロフェッショナルによって形作られた「イベント2.0」を経て、いま回帰していると言えるのかもしれない。

 しかし、プロフェッショナルとして業界を形成していた側から考えれば、このような動きは、「ディスラプション(破壊)」としてもとらえられる。私自身の肌感としても、イベントの数は増えているものの、ビジネスディールとしては成立しにくくなっているように思う。相当規模のイベントであっても、プロフェッショナルで無くとも実現できている。たとえば、「Slush」など世界的スタートアップのイベントも、主催者は日々イベントを行っているわけでも無く、スタッフも学生を中心としたボランティア。もちろん、舞台などはプロフェッショナルによる建て込みであるし、運営等も商業展示会のクオリティと比較するにおぼつかない。ただそれは、参加者の目的達成~満足感とは関係ないのだろうと思う。

 このように、これまではプロの手によってのみ行われてきたイベントが、デジタル化によって「再民主化」して来ている。さらには、これまで業界とは思われていなかった様々なプレイヤー~コンサルティングファーム、ITベンダー、コンテンツサプライヤー、プラットフィーマー…etc.~も、イベントに関わり出しており、業界の垣根は、これまでになく低くなくっている。市場は拡大しつつも、これまでの”業界”にあっては、「デジタル・ボルテックス」に飲み込まれるのは、時間の問題だろう。これは、イベントに限ったことではなく、PwCもメガトレンドとして、「Disruption(ビジネスモデルの創造的破壊と産業の境界線の消失)」を報告している(「PwC Global Megatrends Forum 2018」)。

 では、私たちイベント業務管理士が、この「イベント3.0」時代にできること何だろうか。それを私自身は、”セレンディピティ”の提供だと考えている。コトラーは、「デジタル化が進む世界でマーケティング4.0に移行すると、人間を中心とすることの重要性はますます高まる」としている。優れたデジタル技術によって、人間が受け取る刺激は、その人に最適化するようフィルタリングされ、知りたいこと、感じたいことが、選りすぐられて届けられる。情報過多の時代において、それは必然であろう。しかし、このことは、ポランニーのパラドックス~「人は語れる以上の事を知っている」に応えられず、いわゆる「フィルターバブル」に包まれることになる。私たちは、この「フィルターバブル」を超え、フィジカルな体験(イベント)によって、当人さえも気が付いていなかった”セレンディピティ”を提供することに努めることで、イベント業務管理士としての本分を全うできるのではないだろうか。

 私たちTOKYO FM は、この2018年8月9日:「パークの日」に、数寄屋橋交差点・銀座ソニービルの跡地に誕生した立体公園”Ginza Sony Park”に、トレーラーハウス「エアストリーム」を改造した新しいサテライトスタジオ『TOKYO FM | Ginza Sony Park Studio』をスタートさせた。いまやグローバル化する”Ginza”で、『渋谷スペイン坂スタジオ』や『TOKYO FM Midtown Studio』で培ったノウハウを活かして、放送だけでは届けられない~まさに”フィジカルな体験”としての音楽や情報との出会いを提供していく。ここで出会う音楽や情報、イベントから感動~”セレンディピティ”を届けられたらと、関係者一同、奮起している。

 デジタル化や「ディスラプター」自体は、全く脅威では無く、むしろ市場の裾野を広げることとで、私たちの活躍の場を拡げている。しかし、そこで起きている価値の変化や新しい価値の誕生~「ディスラプション」に気が付かないでいると、指数関数的に膨張する”彼ら”に、あっという間に取って代わられてしまう。私たちイベント業務管理士のチカラで、自らディスラプションを起こし、イベント業界のイノベーションを実現していきたいものである。

引用・参考文献
『対デジタル・ディスラプター戦略』マイケル・ウェイドほか 著/根来龍之 監訳(日本経済新聞出版社・2017年)
『閉じこもるインターネット』イーライ・パリサー(早川書房・2012年)
『コトラーのマーケティング4.0』フィリップ・コトラーほか(朝日新聞出版・2017年)

 

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