「日本の展示会は生き残れるか

■執筆者 松倉 崇
■執筆日時 2002年2月15日
 
世界標準を外れた日本の展示会
 日本で開催される展示会・見本市は約700件、その市場規模は7,000億円以上と推定される。各種のイベントの中でも最も安定した、そして大きなシェアーを持っているといえよう。ところがこの展示会・見本市には大きな問題が内包されている。
 まず指摘されるのは、「トレード性の希薄さ」である。ドイツを中心とするヨーロッパにおけるメッセでも、ショウやフェアーと呼ばれるアメリカでも「売り手と買い手が出会う場」と位置づけられている。従って出展者の頭の中にあるのは、「出展経費を取り戻して更に利益を得るには、幾らの売り上げを確保しなければならないか?」「そのためには会期中に何人の優良見込客をキャッチする必要があるのか?」ということである。
 だから係員の行動や対応も、ブース内の構成も、その一点にしぼられ、実質的ものになってくるわけである。
 このような背景であれば、「どの展示会に参加して、どの展示会からは撤退すべきか」の判断は、将に真剣勝負となる。その際の判断材料は、まず「来場者の属性と数」であり、つぎには「出展者数とその領域」、そして「展示会の規模や実績」という順番であろう。なにしろ、その展示会の姿を物語る「基礎データの信憑性」が重要になって来るのである。
日本の展示会の修正すべき点
 振り返って日本の現状を見てみよう。来場者数は必ず前年を上回って発表されるのが業界の常識。これを長年続けているうちに、水増し係数はどんどん膨れて今や「3割から3倍まで」等と囁かれている。
 来場者属性については発表されないものがまだまだ多いし、発表されても切り口が統一されていないから比較は不可能というのが現状である。
 またブース内では何故かミニスカートのアテンダントがアンケートを求めて子供でも欲しがらないようなノベルティをばらまいている。もちろん商品知識はないから、何か聞いても「ちょっとお待ちください!!」だけで延々とまたされる。
 これでは、商談ベース見込客発見を目的に参加した海外からの出展者が戸惑うのも無理はない。だから1~2回は参加してみても「成果が期待できない」ので、何時しか去っていってしまう。実際の取引きでは海外からの輸入がある程度のシェアーを占めている分野であるにもかかわらず、出展者は殆どが国内企業だったりというのも日常茶飯事である。

産業の活力低下を招く危険性
 どこかでこの流れを断ち切らないと、えらい事になってしまうのではないだろうか?アジアの中ではシンガポールが既に国際標準の展示会を展開し、アジアの主要拠点としての地位を確保している。韓国もソウルとプサンを中心に猛烈な勢いで施設整備をすすめている。中国では既に実績を築いている広州に引き続き、世界に冠たる巨大都市上海に市政府が施設を作り、企画運営にはドイツのハノーヴァ、フランクフルト,ミュンヘンの三っのメッセ会社が合同して設立した新会社が当たるという。
 これらが本格的に機能した暁にはアジア地区に新しい製品を導入するに当たって、果たして日本の展示会に出展する外国企業はあるだろうか?日本の展示会の地盤沈下はとりも直さず、各々のジャンルにおける先進情報の集積が阻害され、ひいてはその産業の日本の水準が低下するという事である。

(「E&C」2002年2月号掲載)

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* プロフィール*
1940年 富山県生まれ 早稲田大学商学部卒業 専攻は広告管理論
1965年 (株)電通入社 SP局に配属され、長らく販売促進の企画および制作・実施を担当。
1987年よりコンべンション業務室に転じ、展示会主催者の業務代行、国際会議、販売店大会や幕張メッセオープニング等を担当。
1996年 社団法人日本イベント産業振興協会に出向。イベント白書、地域イベントハンドブック,協会機関誌”クリエィティブイベント”等の編集・刊行、国内イベント市場規模推計、展示会・見本市のあり方、博覧会の開催効果、などの調査研究に従事